北里大学は2020年5月7日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して感染抑制能力を有するVHH抗体の取得に成功したと発表しました。この研究成果は、新型コロナウイルス感染症の治療薬や診断薬の開発につながることが期待されています。この取り組みは、北里大学大村智記念研究所ウィルス感染抑制学研究所、Epsilon Molecular Engineering(EME)、花王安全性科学研究所の研究グループの共同研究によるものです

花王はまず、EMEとともに候補VHH抗体の配列情報の取得に取り組みました。無数に存在するタンパク質の中から標的分子に結合するタンパク質を効率的に取得するため、タンパク質とタンパク質をコードするDNAを連結させるEMEの技術「cDNAディスプレイ技術」を活用しました。続いてヒト培養細胞で発現させた新型コロナウイルスの表層に存在する「S1タンパク質」を標的分子に用いたスクリーニングを実施し候補となるVHH抗体の配列情報を取得しました。

次に、長年の研究開発で培ったバイオ生産技術を活用することで、候補VHH抗体の配列情報から得られた候補遺伝子の人工合成を行い、微生物によるVHH抗体産生を行いました。作製したVHH抗体の標的分子に対する結合能を評価したところ、VHH抗体が標的分子と結合することが確認できました。

その結果、VHH抗体を添加した場合に新型コロナウイルスの細胞への感染が抑制されていることが確認できました。このことから、取得したVHH抗体は、新型コロナウイルスに結合するだけでなく、感染抑制を有することが明らかとなりました。

今回の研究では、新型コロナウイルスに対して結合することで感染能の抑制が期待できるVHH抗体の取得に成功しました。この成果は、新型コロナウイルスの治療薬や検査薬の開発につながることが期待できます。今後、今回の成果を世界中で活用できる方法について検討し、発信していく方針です。

そもそもVHH抗体とは?

ラマやアルパカなどのラクダ科動物の抗体の中には、軽鎖を伴わず重鎖だけで形成される抗体が存在し、その重鎖の可変領域はVHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)抗体、単一ドメイン抗体、また、通常の抗体のサイズ150-160kDaに対して12-15kDaと小型であることからナノボディ(nanobody)とも呼ばれています。

ナノボディは小型であることから、化学修飾や抗体薬物複合体への展開が容易であり、大腸菌や酵母を製造工場として利用可能であります。

サイズが小さいことに加えて、通常の抗体の半分の数の3つのループ状の相補性決定領域(CDR1/2/3)で抗原に結合することも特徴であり、これもあって、通常の抗体が入り込めないような領域に位置する抗原を認識することが可能になります。また、CDR1とcDR3のループがより長いことが、結合親和性と特異性に有利に働きます。

CDR以外の領域にも特徴があります。

CDRをつなぐ領域(framework region)に多く分布する親水性アミノ酸が水溶性を高め、また、温度やpHの変化に対してより安定であります。

こうした特徴を備えていることから、ナノボディの基づく診断薬や治療薬の開発が注目を集め、2019年には2価のナノボディcaplacizumab(Cabivi)が、後天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬としてFDAに承認されました。

ナノボディ作出法

抗原で免疫したラマやアルパカなどの動物から血液を採取し、そのB細胞から可変領域を含むcDNAライブラリーを構築し、種々のディスプレイ法に組み込みスクリーニングし、固定化した抗原を使って、候補ナノボディを確認し、in vitro/in vivoでの機能解析や標的との複合体構造解析へと進みます。

東南大学が構築・提供し、2,391種類のナノボディのデータが蓄積されているInstitute Collecsion & Analysis Nanobody(iCAN)データベースの配列から、ナノボディ開発を進めることも可能であります。

参考文献:Bio nikkeiBP,  criso-bio.blogより

二子玉川メディカルクリニック